企業は法令遵守経営(コンプライアンス経営)が求められています。最近ではブラック企業などが報道されていることはご承知の通りですね。メンタルヘルス対策を考える前提としてまずは次の2つの法令の確認をしておきましょう。
関係する2法令をチェック!
【労働安全衛生法による規制】
労働安全衛生法。これは労働基準法から派生した法令です。職場における労働者の「安全と健康」の確保と「快適な職場環境」の形成を目的として定められた法令です。「事業者は、労働災害を防止するために、労働安全衛生法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境をつくり、労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならない」、と定められています。
また、その第69条で、「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」と定められています。
【労働契約法による規制】
この法令で、使用者の労働者に対する「安全配慮義務」(健康配慮義務)が明文化されています。労働契約法第5条で、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命 、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」とされているのです。メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に当然含まれます。
いかがですか。こうした法令によって企業は社会的責任を負っているのです。
リスクマネジメント(安全配慮義務違反で民事上の損害賠償責任)
労働契約法には罰則がありませんが、安全配慮義務を怠った場合、民法第709条(不法行為責任)、民法第715条(使用者責任)、民法第415条(債務不履行)等を根拠に、使用者に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在していることを肝に銘じておかなければなりません。
【損害賠償請求に至った判例】 資料出所 東京都労働相談情報センター
事例1 エージーフーズ店長うつ病自殺事件(過重労働)
京都地裁―平成13年(ワ)1607号
【概要】
飲食店の店長であるAさんは、長時間労働、過重労働のため、疲労困憊した毎日を送っていました。しかし、使用者であるB氏は、Aさんの状態を知り得たにもかかわらず、何の措置もとらない上に、売上減少の回復努力、本人の望まない配転命令を課していたのです。
この状況からAさんはうつ病を発症しました。
【裁判の結果】
逸失利益5,312万余円(67歳まで就労可能であることを前提)、死亡慰謝料等2,600万円の支払いを命じました。
事例2 川崎市水道局職場いじめ自殺控訴事件(ハラスメント)東京高等裁判所 平成15年3月25日
【概要】
水道局の職員であるCさんは、課長D氏,係長E氏、主査F氏らから猥雑な話をされたり肥満をからかわれるなど、様々ないじめを受け、統合失調症を発症しました。その後症状は回復せず、自殺未遂を何回か繰り返した後、遺書を残して自殺しました。
【裁判の結果】
被告である川崎市に対し、安全配慮義務違反があったとして、国家賠償法による損害賠償として1,062万円の支払を命じました。
いかがでしょうか。企業の民事上の損害賠償責任は重いですね。
仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)
国が進めている、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」をご存じでしょうか。健康で快適な生活は、仕事とプライベートの充実にあります。企業がメンタルヘルス対策に取り組むことは、これを推進することにも他ならないのです。心身ともに健康で満足感が高いからこそ最大限の力も発揮できるのですね。