実践マネジメント心理学

第18回:採用コミュニケーション:「誰にとって」、良い会社か。

自社の働き方、「本質的な魅力」を確認する

私は、もう20年以上も前になりますが、1990年代前半に、リクルート社の採用業務を担当していました。
当時、リクルートは、入社したての若い社員たちが、それこそ24時間・365日働き詰めているような(本当はそこまでは酷くありませんでしたが)、いまでいう、ブラック企業のような印象を持つ人の多い企業でした。しかも1988年に起きたリクルート事件で、企業イメージは最悪です。

そのような中で、私は入社2年目の途中から採用広報業務も担当することになりました。
真っ先に考えたのは、このあまりに悪い企業イメージを、採用プロモーションで払拭しようということ。経験が浅いながらに色々とイメージ調査資料を引っ張り出したり、社内外にヒアリングしたりしながら、人事部長に、企業イメージUPの必要性と取り組みについて提案をしました。

業務が山積し、全社員が非常に忙しく働いているキツい働き方のイメージの会社で、巷では不夜城と言われている。若くてもいきなり難易度の高い業務を与えられハードだ。
一方で給料は高く、3年に1度の長期休暇制度があったり、寮や社宅も(当時)充実している。社員が飲める自社のバーもある。男女分け隔てなく働いている。
前者のような部分のイメージを払拭し、後者のような制度や給与・待遇などのほうに光を当ててイメージチェンジを図りたい---。

すると、僕の前のめりな提案を聞いた、当時のT人事部長は、こうおっしゃいました。

「お前、うちの会社のイメージを、本当に、いま提案したようなかたちでよくしたいのか?」

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僕の頭の中は、疑問符でスパーク、、、「イメージ、よくしたほうがよくないですか?」

T人事部長がおっしゃったことは、こういうことでした。

「お前やみんなは、なんでリクルートに入ってきたんだ?福利厚生がいいからか?仕事が易しいからか?」
「うちには、若いときから、他の会社では任せてもらえないようなレベルの仕事をガンガン任せてもらえて、他の大手にいったら30代、40代、50代にならないと任されない仕事を20代、30代でやれるから入社したんじゃなかったか?」
「5時や6時に定時で会社を出て、平日から家でプロ野球を観ながらビールで晩酌するような毎日を過ごしたくてうちに入った人間はいるのか?」
「もちろん、ハードワークをする分、給与もかなり高くもらえる。男女隔てなく働けて、実力で役割は決められる。そんな部分はしっかりと学生たちにも伝えるべきだ」

はっと気がつきました。
そうか、「リクルートに入りたい」と誰しもに思われる必要はないし、逆に、いまでいうワークライフバランスを重視するというようなタイプがリクルートに入社したら本人も会社もお互いに不幸だ。

「誰にとって」良い会社なのか、を明確にしない限り、万民にとっての良い会社などありえないのだ、ということを、このときに理解したのです。

求める人材像は、明確か?

採用活動において、最も大事なことは、「どんな人が入社すれば、本人にとっても自社にとってもハッピーなのか」を明確化することです。

任されて自由にやることで力を発揮できる人が、精密なオペレーションによって構築された会社に入れば窮屈で良さを発揮できないでしょうし、きっちりと確実性をもって丁寧に作業することが得意な人が、「まあ、やっておいて」的なフレキシビリティ型の会社に入ってしまえば、ストレスでおかしくなってしまうでしょう。

人にも企業・組織にも、その性格や良さ、長所・短所があるものです。絶対的な「良い人材」も存在しなければ、絶対的な「良い会社」も存在しない。
就職を結婚と例えるのも、まさに、お互いの相性をもって惹かれあい出逢い、お互いの特徴を活かしあいながら歩んでいくのが就職でもあり結婚でもあるからでしょう。

とすれば、リクルーターの人たちに上司や人事が言わなければならないことは、

「我が社にとってタイプがマッチしている人との出会いを探し続けなさい」
「もし、相性が良いと思える学生と出会えたら、そのときには、なぜ君が当社にぴったりくると思うかを、遠慮せずにはっきりと伝えなさい」

ということですね。
ともすると勘違いして、リクルーターの人たちは、目の前の学生を全員口説かなければいけないのではないかと思いがちです。

ではなくて、「キミが、ぜひとも彼・彼女と一緒に働きたい!と本気で思える学生を探し続けることが、今回のミッションだよ」と、しっかり伝えてあげましょう。

採用活動のよいところは、こうしたことを通じて、リクルーター社員たち自身が、自社の魅力や求める社員像を深く考え自覚するようになることです。実はこの副次効果のほうが、会社全体にとっては教育的価値が高いとまで言えます。

今宵、「どんな後輩たちが入社してきてくれるとよいか」についての話題を酒の肴に、部下たちや現場の社員と一席持たれてみてはいかがでしょうか?


【バックナンバー】

著者:井上 和幸 株式会社 経営者JP代表取締役社長・CEO    
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、人材コンサルティング会社取締役、株式会社リクルート・エックス(現・リクルートエグゼクティブエージェント)マネージングディレクターを経験後、2010年2月に株式会社 経営者JPを設立。
現在は、経営者の人材・組織戦略顧問を務める。人材コンサルタントとして、経営人材の採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供。 著書に『30代最後の転職を成功させる方法』(かんき出版)、『ずるいマネジメント 頑張らなくても、すごい成果がついてくる!』(SBクリエイティブ)等。メディア出演多数。

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