私は、もう20年以上も前になりますが、1990年代前半に、リクルート社の採用業務を担当していました。
当時、リクルートは、入社したての若い社員たちが、それこそ24時間・365日働き詰めているような(本当はそこまでは酷くありませんでしたが)、いまでいう、ブラック企業のような印象を持つ人の多い企業でした。しかも1988年に起きたリクルート事件で、企業イメージは最悪です。
そのような中で、私は入社2年目の途中から採用広報業務も担当することになりました。
真っ先に考えたのは、このあまりに悪い企業イメージを、採用プロモーションで払拭しようということ。経験が浅いながらに色々とイメージ調査資料を引っ張り出したり、社内外にヒアリングしたりしながら、人事部長に、企業イメージUPの必要性と取り組みについて提案をしました。
業務が山積し、全社員が非常に忙しく働いているキツい働き方のイメージの会社で、巷では不夜城と言われている。若くてもいきなり難易度の高い業務を与えられハードだ。
一方で給料は高く、3年に1度の長期休暇制度があったり、寮や社宅も(当時)充実している。社員が飲める自社のバーもある。男女分け隔てなく働いている。
前者のような部分のイメージを払拭し、後者のような制度や給与・待遇などのほうに光を当ててイメージチェンジを図りたい---。
すると、僕の前のめりな提案を聞いた、当時のT人事部長は、こうおっしゃいました。
「お前、うちの会社のイメージを、本当に、いま提案したようなかたちでよくしたいのか?」
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僕の頭の中は、疑問符でスパーク、、、「イメージ、よくしたほうがよくないですか?」
T人事部長がおっしゃったことは、こういうことでした。
「お前やみんなは、なんでリクルートに入ってきたんだ?福利厚生がいいからか?仕事が易しいからか?」
「うちには、若いときから、他の会社では任せてもらえないようなレベルの仕事をガンガン任せてもらえて、他の大手にいったら30代、40代、50代にならないと任されない仕事を20代、30代でやれるから入社したんじゃなかったか?」
「5時や6時に定時で会社を出て、平日から家でプロ野球を観ながらビールで晩酌するような毎日を過ごしたくてうちに入った人間はいるのか?」
「もちろん、ハードワークをする分、給与もかなり高くもらえる。男女隔てなく働けて、実力で役割は決められる。そんな部分はしっかりと学生たちにも伝えるべきだ」
はっと気がつきました。
そうか、「リクルートに入りたい」と誰しもに思われる必要はないし、逆に、いまでいうワークライフバランスを重視するというようなタイプがリクルートに入社したら本人も会社もお互いに不幸だ。
「誰にとって」良い会社なのか、を明確にしない限り、万民にとっての良い会社などありえないのだ、ということを、このときに理解したのです。